「相続した実家のマンション、もう住む予定もないし、早く手放したい」。そう思って不動産会社に相談したら、その場で「すぐ買い取りますよ」と言われた——。この一言にホッとして話を進めた結果、あとから相場を知って「数百万円も損していた」と気づく方が、実は少なくありません。
【結論】業者買取は「手間と時間をお金で買う」選択。正解は人によります。
ただし、相場の概算把握と相見積もり3社を飛ばすと、ほぼ確実に損をします。業者買取の価格は一般的に仲介(市場)相場のおおよそ7割前後が目安とされ(媒体により6〜8割、7〜9割と幅あり)、早く確実に現金化できる代わりに手取りは2〜3割ほど目減りする、と概算で捉えておくのが安全です。「楽」の対価がいくらなのかを、金額で直視してから決めましょう。
はじめに、私の立ち位置をお伝えしておきます。私は不動産賃貸業を10年続けている現役の大家で、FP2級を持ち、営業の世界に20年(うち外資系カード会社の営業を10年以上)いる人間です。つまり今回のテーマでいうと、「物件を買い取って、手を入れて、高く売り直す側」の仕組みを内側から見てきた立場です。今日はその知識を、売る側=あなたの味方として使います。業者の決算書のソロバンを開きながら、本音で暴いていきます。
📍 まだ「売る」と決めていない方へ:相続したマンションを売る・貸す・持ち続けるのどれにするか迷うなら、まず 相続マンションは売る・貸す・持つ?判断ガイド で30秒診断を。本記事は「売る」と決めた方向けの業者買取の実務ガイドです。
まず1つだけ問います「あなたが本当にほしいのは何か」
「すぐ買い取りますよ」に飛びつく前に、自分にこう問いかけてみてください。
あなたが今ほしいのは、次のどれですか?
- 高く売ること(1円でも多く手取りを残したい)
- 早く・確実に手放すこと(時期を読みたい、現金化を急ぐ)
- 手間をかけたくないこと(片付け・内見対応・交渉が苦痛)
この3つは、残念ながら全部を最大化できません。トレードオフの関係にあります。高値を狙えばスピードと手間は犠牲になり、楽を最優先すれば価格は下がる。業者買取と仲介、どちらが向いているかは、この問いの答えで決まります。
そして、ここがいちばん大事なところ。「面倒だから即買取で楽をする」——その「楽」に、あなたは何百万円まで払えますか? この記事は、その金額を一度きちんと数字で見てから判断してほしい、という一点で書いています。
「買取」と「仲介」は何が違うのか(網羅表)
まず土台として、2つの売り方の違いを整理します。ここを曖昧にしたまま進むと、業者の土俵で話が進んでしまいます。
- 仲介:不動産会社が買主(=一般の個人など)を探して、あなたと買主を結ぶ。市場価格で売れる可能性が高い反面、買主が見つかるまで時間がかかる。
- 買取:不動産会社(買取再販業者)が、買主を探さず自ら直接買い取る。早く・確実に現金化できる反面、価格は市場相場より下がりやすい。
| 比較項目 | 仲介(市場で売る) | 業者買取(直接売る) |
|---|---|---|
| 売却価格の目安 | 市場相場(=高くなりやすい) | 市場相場の概ね7割前後が目安 |
| 現金化までの期間 | 数か月かかることも(買主次第) | 数日〜数週間と早い傾向 |
| 内見・購入希望者の対応 | 必要(複数回の内見対応も) | 原則不要 |
| 仲介手数料 | 原則かかる | かからないケースが多い |
| 周囲に知られにくさ | 広告するため知られやすい | 公開せず進められる |
| 向いている人 | 時間に余裕があり、手取りを最大化したい人 | 急ぎ・確実性・手間ゼロを優先する人 |
ざっくり言えば、仲介=高いけれど時間と手間がかかる/買取=安いけれど早くて楽。この性質の違いを押さえておけば、業者から「うちなら今すぐ買えます」と言われても、それが「サービス」なのか「あなたの値引き」なのかを冷静に見分けられます。
【暴露】「買いたい」と言われたら、むしろ高く売れるサインです
ここからが、私が大家として一番お伝えしたい本音です。業者から「ぜひ買い取らせてください」「すぐ現金化できますよ」と前のめりに言われると、多くの方は「この物件、人気なんだ」と気分が良くなります。だからこそ、提示された価格にすんなり納得してしまう。
でも、買い取る側のソロバンを開いてみてください。業者が前のめりで「買いたい」と言うのは、その物件が”市場でも売れる物件”だからです。 売れない物件をわざわざ自社の在庫リスクで抱えたい業者はいません。つまり「買いたい」は、裏を返せば「あなたが仲介で市場に出しても、ちゃんと買い手がつく物件ですよ」という証明書のようなもの。
買い取る側の利益構造(ざっくり)
①あなたから安く仕入れる → ②リフォーム費用を乗せる → ③利益を確保する → ④市場で高く売り直す。
この①〜④の差額(再販利益+リスク分)が、あなたへの提示額が市場より低くなる正体です。
業者を悪者にしたいわけではありません。これは健全なビジネスです。彼らはリフォーム代を立て替え、売れるまでの在庫リスクを負い、その対価として利益を得る。問題は「その利益が、本来はあなたが受け取れたはずのお金から出ている」という事実を、売る側が知らないまま進めてしまうことです。「買いたい」と言われた時こそ、「仲介で出したらいくらになるんだろう?」と一歩立ち止まる——これが数百万円を守る最初の分岐点になります。
買取が”市場より安くなる”理由と、目安は何割か
では具体的に、買取はどれくらい安くなるのか。ここは断定を避け、概算の目安としてお伝えします。
業者買取の価格は、一般的に仲介(市場)相場のおおよそ7割前後が目安とされています(媒体により6〜8割、7〜9割と幅があります)。理由はシンプルで、買い取った側は「安く仕入れて、リフォーム費用を乗せ、利益を確保して再販する」必要があるからです。
買い取る側の設計をもう少し開いておくと、買取再販業者は一般的に、リフォーム費用として物件価格の1〜2割ほどを見込み、そこに利益を15〜20%前後(自社施工なら25%程度まで)乗せて再販する、という前提で仕入れ値を決めるのが通例とされます。つまり、あなたへの提示額は「最終的な再販価格から、相手のリフォーム代と利益をあらかじめ差し引いた金額」というわけです。
仮に市場相場が2,000万円の物件なら、買取の手取りは概算で1,400万円前後が一つの目安。その差およそ600万円が、「早く・楽に売れる」ことの対価ということになります(数値はあくまで目安で、立地・築年数・状態で大きく上下します)。
大切なのは、この差額を「損」と決めつけないことです。急いで現金が必要なら、その600万円で「時間と確実性」を買うのは合理的な判断になり得ます。判断を誤るのは、この差額の存在を知らずに「買取が一番得だ」と思い込んで契約してしまうケース。だからこそ、次にお見せする「2人の分かれ道」を見てください。
同じ実家マンションでも、手取りが数百万円変わる分かれ道
面倒だからと即買取に飛びつく人と、ひと手間かけて数百万円を守る人。同じ物件でも、たどる道はこれだけ違います。
😟 面倒だから即買取で損する人
- 相談したのは1社だけ
- 「残置物があるので…」と値引きを提示される
- 相場を知らないまま提示額に納得
- その場で即売却
- あとから相場を知って後悔
🙂 ひと手間で数百万円を守る人
- 近隣の売出価格で相場を概算把握
- 3社以上で相見積もり(買取+仲介)
- 残置物・遺品整理は切り離して検討
- 査定の根拠を質問して比較
- 納得して、自分で選ぶ
この差 = 数百万円の概算ロス ⬇️
左の道を歩いてしまう人の共通点は、「相談先が1社だけ」「相場を調べていない」の2つです。逆に言えば、この2つを潰すだけで、右側の道に乗り換えられます。やることは難しくありません。
「残置物があるので…」という値引きの罠
実家の売却で、もっとも業者の値引き口実に使われやすいのが残置物(=家具・家電・遺品などの置きっぱなしの荷物)です。「中の物を全部片付けるのが大変ですから、その分お安くなります」——これ、一見もっともらしいですよね。でも、ここで一度立ち止まってほしいのです。
残置物の撤去・遺品整理の費用は、間取りごとの目安として概算で次のとおりとされています。
- 1K(ワンルーム):約3〜8万円
- 2DK前後:約8〜40万円
- 3LDK:約12〜65万円
戸建ての残置物撤去でも、2〜3LDKで20〜30万円台が中心という見積もり例があります。つまり、片付けにかかる実費は多く見積もっても数十万円。それなのに、残置物を理由に数百万円値引きされたら——これは完全に本末転倒です。数十万円の片付け代を理由に、数百万円を差し出していることになります。
大家としての本音
遺品整理・不用品回収・売却は、分けて依頼すると有利になる場面があります。「全部まとめてお任せ」は楽ですが、業者にとっては「値引きの口実をまとめて手に入れる」チャンスでもある。片付けは片付けの専門業者に実費で頼み、売却は売却で正味の価格を交渉する。手間は増えますが、数十万円の出費で数百万円を守れるなら、検討する価値は十分あります(正確な金額は現地見積もりでご確認ください)。
🧹 残置物の片付けで困ったら(複数社をまとめて比較)
「家財が残っているから安く」と数百万円値引きされるくらいなら、不要品はまとめて売る・処分する方が手元に残ります。一軒ずつ買取店を回らなくても、まとめて査定を依頼すれば各社の金額を見比べて選べます(家にいながら査定〜買取まで)。
※ 広告(PR)。急いで手放す必要がなければ、状態の良い品はフリマアプリで個別に売る方が高くなる場合もあります。ご自身の状況に合わせて選んでください。
セルフ診断|あなたは”買い叩かれリスク”が高い?
ここで一度、現在地を確認しましょう。次の項目に、当てはまるものはいくつありますか。
□ チェックしてみてください
- ☐ 相談したのは 1社だけ だ
- ☐ その物件の 相場(近隣の売出価格)を調べていない
- ☐ 「残置物・遺品整理が大変だから」と値引きを受け入れそう
- ☐ 「すぐ買いたい」と言われて気分が良くなった
- ☐ 遺品整理・不用品回収・売却を“全部お任せ”にしたい
- ☐ 査定額の根拠を聞いていない
チェックが3つ以上ついた方は、率直に言って、業者の利益構造に乗せられやすい状態です。これは能力や知識の問題ではありません。実家の売却は人生で何度もあることではないので、相場観がないのは当たり前。だからこそ、相手のソロバンを知ったうえで、次の手順を踏んでほしいのです。逆に、チェックがほとんどつかなかった方は、すでに損しにくいポジションにいます。
損しない売り方の手順(相見積もり3社が要)
やることはシンプルです。順番に踏むだけで、左の「損する道」から右の「守る道」に乗り換えられます。
近隣で売り出されている似た条件のマンションの価格を、ざっと眺めるだけでOK。「この物件はだいたい○○万円帯」という肌感覚を持つことが、すべての交渉の土台になります。
これが最重要。1社の提示額が高いのか安いのか、比較対象がなければ判断できません。同じ物件でも会社によって価格差が出ます。買取と仲介を混ぜて見積もると、「楽の対価=価格差」が金額ではっきり見えてきます。一括査定サービスを使えば、複数社にまとめて依頼できて手間が省けます。
「片付け代は数十万円の実費」という相場を握っておく。数百万円の値引きを残置物のせいにされたら、その場で契約しないこと。片付けは別途、専門業者に実費で頼む選択肢も持っておきましょう。
「全部まとめてお任せ」が必ずしも得とは限りません。それぞれ別に依頼したほうがトータルで安くなる場面があります。手間は増えますが、金額のインパクトは大きい。
「この価格はどういう計算ですか?」「リフォーム後はいくらで再販する想定ですか?」と聞いてみる。きちんと答えられる業者は誠実です。言葉を濁したり、即日契約を急かしたりする相手は、一歩引いて見直す合図。なお、訪問販売など一定の取引にはクーリングオフが適用される場合があります。契約を急かされても、いったん持ち帰る冷静さを忘れずに。
それでも「買取が向いている人」は確かにいる
ここまで買取の注意点を中心に書いてきましたが、暴露型だからといって「買取は悪、仲介が正義」と言いたいわけではありません。買取が合理的な選択になる人は、確かにいます。
- 相続税の納付など、期限までに確実に現金化したい人
- 遠方に住んでいて、内見対応や片付けに何度も通えない人
- 売却を周囲に知られたくない人
- 築古・条件面で仲介では売れにくいと判断できる物件
こうしたケースでは、価格差(=楽の対価)を払ってでも、スピードと確実性を取る価値があります。要は「価格差を知ったうえで、自分で納得して選んだかどうか」。これに尽きます。知らずに選ばされるのと、知って選ぶのは、同じ買取でも意味がまったく違います。
「売る」前に「貸す」という道もある
そして、これは多くの売却ガイドが触れない視点なのですが——大家を10年やってきた私から見ると、「実家を売らずに貸す」という選択肢が、検討候補から最初から消えている方が非常に多いのです。
立地や築年数によっては、売って一度きりの現金を得るより、賃料収入を得ながら資産として持ち続けたほうが、長期では有利になる物件もあります。固定資産税の負担と、得られる賃料を並べて試算してみる価値はあるはずです。もちろん、貸すには管理の手間や空室リスクがついてきますから、誰にでも勧められるわけではありません。それでも、「売る」と決める前に一度は天秤にかけてほしい選択肢です。
このあたりは別記事で本音を書いています。売却を急ぐ前に、こちらも合わせて読んでみてください。
- 住みながら手放す・貸すという発想なら → リースバックの仕組みと、大家から見た本音
- 貸す場合の管理を誰に任せるか迷ったら → 賃貸管理会社の選び方・変更のしかた
- 売って利益が出た場合の税金が気になったら → 不動産所得・譲渡の確定申告の進め方
🔗 関連記事|売る前に「売る・貸す・持ち続ける」を考える
- 大家がリースバックを勧めない理由 — 売らずに住み続ける/貸す選択肢の本音
- 管理会社の変え方ガイド — 貸すなら管理しだいで手残りが変わる
- 不動産所得の確定申告 — 売却益(譲渡所得)の税金もここで確認
- 不動産投資のリスク9選 — 売らず「投資として持ち続ける」判断材料に
- アパート修繕費の相場 — 売る前にリフォームすべきか迷ったら
まとめ|「楽の対価」を知ってから決めれば、後悔しない
実家のマンションを業者買取で手放すこと自体は、決して間違いではありません。問題なのは、市場相場の概ね7割前後という「楽の対価」を知らないまま、1社だけの提示額にうなずいてしまうことです。
やることは3つだけ。①相場を概算で把握する ②相見積もりを3社以上とる ③残置物を値引きの口実にさせない。この3つを踏むだけで、知らないうちに数百万円を業者に渡してしまう道から、自分で納得して選ぶ道に乗り換えられます。
「すぐ買い取りますよ」と言われたら、それは「あなたの物件は市場でも売れる」というサインかもしれません。だからこそ、一歩立ち止まって問い直す。その冷静さが、あなたの手取りを守ります。実家は、ご家族が長く暮らした大切な資産です。最後まで損なく、納得して手放してください。
※本記事の費用・割合は概算の目安であり、物件の立地・築年数・状態・時期により大きく変動します。実際の金額は複数社の現地査定・見積もりでご確認ください。本記事は広告(アフィリエイトプログラム)を含む場合があります。
よくある質問(FAQ)
Q. 業者買取は、仲介で売るより実際どれくらい安くなりますか?
A. 概算の目安として、業者買取の価格は仲介(市場)相場のおおよそ7割前後とされます(媒体により6〜8割、7〜9割と幅があります)。早く確実に現金化できる代わりに、手取りは仲介より2〜3割ほど目減りすると捉えておくのが安全です。ただし立地・築年数・状態で上下するため、単一の数値で断定はできません。
Q. 「残置物があるので安くなる」と言われました。妥当ですか?
A. 残置物の撤去・遺品整理の費用は、間取り別の目安として概算で、1Kで約3〜8万円、2DK前後で約8〜40万円、3LDKで約12〜65万円ほどとされています。つまり実費は多くても数十万円規模。これを理由に数百万円値引きされるなら本末転倒です。片付けは別途専門業者に実費で頼む選択肢も検討してください(金額は現地見積もりで要確認)。
Q. なぜ相見積もりを3社以上とる必要があるのですか?
A. 1社だけだと、その提示額が高いのか安いのか判断する基準がないからです。同じ物件でも会社によって査定額に差が出ます。買取と仲介を混ぜて複数社から見積もりをとることで、「早く楽に売る対価」が金額として見えるようになります。一括査定サービスを使えば手間を抑えて複数社に依頼できます。
Q. 業者が「すぐ買いたい」と前のめりなのは良いサインですか?
A. 業者にとって良いサインであり、見方を変えればあなたにとっても良いサインです。前のめりに買い取りたいということは、その物件が市場でも売れる可能性が高い証拠だからです。つまり仲介で市場に出せば、より高く売れる余地がある合図とも言えます。即決せず、仲介の場合の価格も確認してから判断しましょう。
Q. 遺品整理・不用品回収・売却は、まとめて1社に頼むほうが楽で得ですか?
A. 楽ではありますが、必ずしも得とは限りません。まとめて任せると、業者にとっては値引きの口実をまとめて握るチャンスにもなります。片付けは専門業者に実費で、売却は売却で正味の価格を交渉、というように分けて依頼したほうがトータルで有利になる場面があります。手間と金額を天秤にかけて検討してください。
Q. 結局、買取と仲介はどちらを選べばいいですか?
A. 何を優先したいかで決まります。手取りを最大化したいなら仲介、期限までに確実に現金化したい・内見対応や片付けに通えない・周囲に知られたくないなら買取が向きます。大切なのは「市場相場の概ね7割前後という価格差を知ったうえで、自分で納得して選ぶこと」です。価格差を知らずに選ばされるのとは意味がまったく違います。


