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「長く住んでくれている入居者の家賃、相場より少し安い。更新のタイミングで上げるべきか、据え置くべきか」——大家なら誰もが一度は悩む場面です。
私は大家歴10年。元・外資系カード会社で営業を10年やってきた経験も踏まえて言うと、家賃改定は「いくら上げるか」より「上げて退去されたら、自分はうれしいのか困るのか」で決めるのが一番ブレません。この記事では、借地借家法のルール(大家は一方的に上げられるのか)から、私自身の判断軸まで、具体的な数字を使って本音で解説します。
📌 結論:相場より少し安い長期入居者なら、据え置きでも相場ぴったりでもなく「小幅アップ(例:+1,000円)」が基本解。家賃は大家が一方的に上げられず(借地借家法32条)、攻めすぎは退去・交渉決裂のリスク。判断軸は「退去されたら、うれしいか困るか」。
🎯 ケースで考える|家賃70,000円・25㎡・15年入居・相場72,000円
相場より2,000円安い長期入居者。あなたならどれ?
① 据え置き
70,000円
② 小幅 👑
71,000円
私の基本解
③ 相場
72,000円
④ 強気
73,000円
大前提:大家は家賃を一方的に値上げできない|借地借家法32条
まず誤解されがちな点から。大家は、家賃を一方的に・好きなだけ上げることはできません。根拠は借地借家法32条(賃料増減請求権)です。
- 家賃が不相当になったとき、貸主・借主は将来に向けて賃料の増減を請求できる(①租税公課の増減/②土地建物価格や経済事情の変動/③近傍同種の家賃との比較)。
- この請求権は形成権=意思表示で効力は生じますが、「いくらが相当か」で合意できなければ、最終的に調停・裁判で決まります。
- つまり借主が同意しなければ、大家が一方的に新家賃を強制徴収することはできない。争っている間、借主は従前家賃を払い続ける(供託する)ことができます。
ここが超重要。値上げは「お願いして合意してもらう」のが基本で、攻めすぎれば交渉決裂・退去・調停という”高くつく展開”になりかねない。これが、私が「小幅」を基本にする最大の理由です。
借主は家賃の値上げを拒否できる?違法じゃないの?
借りている側の疑問にも、大家の立場から正直に答えます。
- 拒否できる?→ できます。値上げは合意が原則なので、借主が応じなければ、その金額では確定しません。
- 勝手な値上げは違法?→ 「違法」というより「合意がなければ効力が確定しない」が正確。大家が通知しても、一方的に新家賃を取り立てることはできません。
- 無視していい?→ 放置はおすすめしません。協議に応じないと、大家が調停・訴訟に進むこともある。誠実に話し合うのが結局はお互いのためです。
借りる側の交渉術は、逆の立場から「家賃を月5,000円下げた交渉術」にまとめています。上げる側・下げる側、両方の本音を知っておくと交渉が見えます。
妥当な値上げ幅は何円?|更新時は3〜5%が目安
「いくらが妥当か」。一般的な目安は更新時で従前家賃の3〜5%程度とされます。今回のケース(70,000円)なら、3%で約2,100円、5%で3,500円。相場72,000円との差は2,000円なので、目安どおりなら相場まで寄せる(+2,000円)のは”理論上アリ”です。
でも私は、15年ノートラブルの長期入居者に、目安いっぱいまで攻めません。理論と現場は違う。ここからが大家10年の判断です。
大家10年の答え|私なら「+1,000円(71,000円)」にする理由
冒頭のケース、私の答えは②小幅アップ(71,000円)。理由は3つです。
- 15年ノートラブル・滞納なしの実績は、それ自体が大きな価値。相場より多少安くても、空室期間・原状回復コスト・新規募集の手間と不確実性を考えれば、長期安定入居のメリットは非常に大きい。2,000円/月=年24,000円のために、その安定を失うのは割に合わないことが多い。
- 据え置きでもなく、相場ぴったりでもなく”少しだけ寄せる”。永遠に据え置くと、いつか相場との乖離が開いて”まとめて上げる”羽目になり、お互いの心理的ハードルが跳ね上がる。今回1,000円でも上げておけば、「相場との差を少しずつ調整していく大家さん」というメッセージになります。
- 更新時の改定は借主の同意が前提。相場ぴったりまで一気に上げると、「だったら引っ越そうかな」のきっかけになりやすいライン。1,000円程度の小幅なら心理的な受け入れ余地があり、関係を損ねずに「今後も状況に応じて見直す可能性」を伝えられます。
判断軸は「退去されたら、うれしいか困るか」
私が家賃改定でいつも使う、汎用的な判断軸はこれです。値上げで退去になったとき、自分はうれしいのか、困るのか。
⚖️ 退去されたら…で決める
退去されても”困らない”
✓ 新規募集で相場で決め直せる自信あり
✓ 原状回復コストも小さい(許容できる)
→ 相場まで寄せてOK(③)
退去されたら”困る”
✕ 相場で決め直せるか少し不安
✕ 原状回復でそこそこコストが出そう
→ 小幅 or 据え置き(①②)
この軸は他の部屋・今後の更新にも使える。感情でなく「困るか/困らないか」で淡々と決める。
もう一つ、私が意識しているのは「入居期間そのものは配慮しすぎない」こと。長く住んでくれた感謝は本物ですが、年数を理由に据え置き続けると、相場との差が開いて自分の首を絞めます。感謝は感謝、経営は経営。ここを切り分けるのが、長く続ける大家のコツです。
値上げの伝え方|決裂を避ける小幅改定のメッセージング
伝え方ひとつで結果が変わります。元営業の感覚で言うと、ここは「交渉」ではなく「すり合わせ」。
- 通知は早めに:一般に更新の1〜3か月前(遅くとも2か月前まで到達)が目安。直前すぎると不信感に。
- 理由を添える:「周辺相場が上がっている」「税負担の増加」など、感情でなく事実で。
- 小幅であることを伝える:「相場は72,000円ですが、長くお住まいいただいているので71,000円に抑えました」——この一言で、攻めていないことが伝わります。
相場の確認には、自分の物件の家賃が適正かを客観視できるレントロールの見方や、空室リスクを下げる空室対策の知識もセットで持っておくと、判断に自信が持てます。
よくある質問(FAQ)
Q. 大家は家賃を一方的に値上げできますか?
できません。借地借家法32条により値上げには借主との合意が原則必要で、金額で合意できなければ調停・裁判で決まります。大家が通知しても、一方的に新家賃を強制徴収することはできません。
Q. 家賃の値上げは拒否できますか?違法ですか?
借主は拒否できます。合意がなければその金額では確定しません。一方的な値上げは違法というより、合意がなければ効力が確定しないと考えるのが正確です。争っている間、借主は従前家賃を払い続けることができます。
Q. 更新時の家賃値上げの妥当な金額は?
一般的な目安は更新時で従前家賃の3〜5%程度です。ただし長期のノートラブル入居者には、退去リスクを考えて小幅(例:1,000円程度)に抑える判断も合理的です。周辺相場との差を基準に決めましょう。
Q. 家賃値上げは何ヶ月前に伝えるべき?
法律で厳密な定めはありませんが、一般には更新の1〜3か月前、遅くとも2か月前までに新家賃・理由・適用日を書面で伝えるのが望ましいとされます。直前通知はトラブルのもとです。
Q. 長期入居者の家賃は据え置くべき?
感謝の気持ちは大切ですが、入居年数だけを理由に据え置き続けると相場との差が開き、後でまとめて上げる羽目になります。小幅でも少しずつ調整しておくと、お互いの心理的ハードルを下げられます。
まとめ|「退去されたら困るか」で淡々と決める
家賃の値上げは、大家が一方的に決められるものではありません(借地借家法32条)。だからこそ、攻めすぎず・甘やかしすぎず、「退去されたら、自分はうれしいか困るか」で淡々と決める。相場より少し安い長期入居者なら、私は小幅アップを基本にします。感謝とビジネスの両立——それが10年続けて分かった答えです。値上げで関係が壊れ、結局は管理を見直したくなったら「管理会社の変え方」も参考にしてください。
📝 この記事の前提:本記事は大家歴10年・元外資系カード会社営業10年の私の判断と、2026年時点の公的情報(借地借家法32条等)をもとに執筆しています。記事内の金額(70,000円・相場72,000円等)は説明用の一例で、実在の物件・入居者を特定するものではありません。個別の判断は契約内容・地域相場により異なるため、迷う場合は専門家にご相談ください。
