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2026年9月2日、ANAアメックスが全面刷新されます。2009年の発行開始から17年、初めての全面刷新です。ゴールドカードの年会費は34,100円から42,900円へ、8,800円の値上げ。プレミアムは165,000円から187,000円へ、実に22,000円の値上げです。SNSでもニュースサイトでも、この話は「値上げのお知らせ」として消費されています。
でも、外資系カード会社で10年以上、法人営業をしていた立場から見ると、少し違う景色が見えます。カード会社が年会費を上げるとき、値上げそのものが目的であることはほとんどありません。上げた年会費に見合わない会員には静かに退場してもらい、見合う会員だけを厚く優遇する——これは「値上げ」ではなく「選別」です。
そして私自身、別のANA提携カード(ANAダイナース)を2018年から8年持った末に、2026年の年会費値上げを機に解約した当事者でもあります。「もったいない」と周りには言われましたが、私にとっては維持費の方がもったいなかった。引き止めの電話も受けました。
この記事では、ANAアメックスの新体系を「選別する側の論理(元カード会社営業10年)」と「選別された側の実体験(ANA提携カード8年→解約)」の両方の目で読み解きます。ニュースの数字を並べるだけの記事にはしません。
📌 この記事の結論
- ゴールドの年会費は42,900円(+8,800円)、プレミアムは187,000円(+22,000円)。既存会員も2026年11月請求分から順次、新年会費に切り替わる
- 「9月1日までに申し込めば年会費は今のまま」は半分だけ正しい。旧年会費が適用されるのは初年度だけで、2年目以降は誰でも新年会費になる
- 年400万円・600万円というボーナスマイルの基準は、「メインカードとして決済を集中させてくれる人」を選ぶための線引き
- 続けるか降りるかは、①損益分岐点 ②改悪耐性 ③撤退容易性 ④3年後も欲しいか、の4つの物差しで判断する。本文で採点方法とチェックリストを示す
- 同じ改定を見て「解約すべき」という声と「9月2日以降に入会すべき」という声が、実際に分かれている。どちらが正しいかは、あなたが”選別”のどちら側にいるかで決まる
- 2026年9月2日、ANAアメックスはこう変わる(新旧比較の全体像)
- カード会社は年会費を上げるとき、何を計算しているのか?
- 年400万円・600万円のボーナス基準は、誰のための数字か?
- 「100円=3マイル相当」の”相当”とは何か?
- 私はANAダイナースを8年持って、値上げを機に降りました
- 解約の電話で、引き止められると何が起きるのか?
- 損益分岐点はどこか——続けるか降りるかを4つの物差しで採点する
- 降りると決めた人がやるべきこと(実務チェックリスト)
- 提携カードの装備は、なぜ遅れるのか?——タッチ決済を7年待った話
- それでも申し込む人へ——向いている人・向いていない人
- よくある質問
- まとめ|値上げの通知は、使い方を見直す最高のタイミング
2026年9月2日、ANAアメックスはこう変わる(新旧比較の全体像)
まず事実を整理します。今回の刷新でいちばん影響が大きいのは年会費です。改定前・改定後と差額をまとめました。
ここで見落とされがちなのが、この改定は新規申込者だけの話ではないという点です。既存会員も2026年11月ご請求分から、前回の請求月に応じて順次、新年会費へ切り替わります。切り替えの時期は会員ごとに異なり、アメックス公式のリニューアルページの早見表によれば2026年11月から2027年10月まで、最大で1年ほどかけて全会員に行き渡る設計です。「切り替えがまだ来ていないから関係ない」のではなく、「まだ順番が回ってきていないだけ」というのが正確な理解です。
さらに、ニュース記事の多くが書いていない、いちばん重要な注意点がこれです。「9月1日までに申し込めば旧年会費のまま」という書き方をされることがありますが、公式のリニューアルページには「旧年会費 34,100円(税込)/2年目以降 42,900円(税込)」と明記されています。つまり駆け込みで申し込んでも、旧年会費が適用されるのは初年度だけ。2年目からは、既存会員も新規会員も全員が新年会費になります。急いで申し込む理由は「初年度だけ8,800円安い」ことであって、「値上げを回避できる」ことではありません。
年会費以外の変更点も整理しておきます。
- 海外旅行傷害保険(プレミアム):自動付帯から利用付帯へ(2026年11月1日改定)。補償内容そのものは変わりませんが、旅行代金をこのカードで決済していないと保険が効かなくなります
- ANA SKYコイン獲得プログラム:2026年12月31日で終了。2027年1月1日から「利用ボーナスマイル」へ切り替わります(ゴールドは年間400万円決済で15,000マイル、プレミアムは年間600万円決済で30,000マイル)。2026年は移行の特別期間です。9月1日までにカードを持っている人は引き続きスカイコイン対象(2026年12月31日まで)、9月2日以降に入会した人には2026年9月2日〜12月31日を対象にした短縮版の利用ボーナスマイル(ゴールドは100万円以上で5,000マイル、プレミアムは150万円以上で10,000マイル)が適用されます。全員が同じ新プログラムに揃うのは2027年1月1日からです
- POWER LOUNGE PREMIUM:羽田空港第2ターミナル国際線に新設。通常4,400円のところ、同伴者1名まで無料・回数制限なしで利用できます。9月2日から既存会員も対象。ただし公式が「ANAラウンジとは異なります」と明記しているとおり、国内線のANAラウンジとは別の施設です(国内線ANAラウンジはプレミアムのみ利用可)
- ダイニングキャッシュバック:レストラン予約サービス「ポケットコンシェルジュ」経由の予約で20%キャッシュバック。年間上限はゴールドが2万円、プレミアムが4万円(1〜6月・7〜12月の期間で上限を折半)。会員向けの特典登録ページ「Amex Offers」での事前登録が必要で、既存会員は10月29日から利用開始
ダイニングキャッシュバックは、年間上限が半年ごとに折半される点に注意してください。ゴールドなら年2万円の上限も、実際には1〜6月に1万円、7〜12月に1万円という区切りです。上半期に使い切らなかった分を下半期に繰り越すことはできないため、登録だけして使わずに終わる「もったいない特典」になりやすい部分でもあります。
あわせて、新デザインへの切り替えは2026年9月2日13時から始まり、既に会員の人は有効期限が2026年10月分のカードから順次、新デザインでの更新となります。年会費の切り替えとデザインの切り替えは時期がずれているため、「新デザインのカードが届いた=年会費も上がった」とは限りません。手元に届いたカードの見た目だけで判断せず、次の更新案内やご請求明細で新年会費の適用時期を確認するのが確実です。
年会費・保険・ラウンジ・マイル積算。これだけのルールを一度に動かすのは、カード会社にとって手間もリスクも大きい仕事です。それでも一括でやった。ここに「会員構成を見直したい」という意志の強さが出ています。
ANAは今回のカード刷新と並行して、国内線の運賃改定も進めています。カードの特典設計と運賃の両方が動いている今は、ANAの使い方そのものを見直すタイミングとも言えます(関連記事:ANA国内線 2026年の運賃改定まとめ)。
カード会社は年会費を上げるとき、何を計算しているのか?
ここからは、外資系カード会社で10年以上、法人営業を担当してきた立場からの見方です。特定の会社の内情ではなく、カード業界に共通する構造として読んでください。
年会費の値上げは、単純な「収益改善」の手段ではありません。年会費を1万円上げたところで、会員数が減れば売上は簡単に相殺されます。カード会社が本当に見ているのは、会員ポートフォリオの入れ替えです。
カードの会員には大きく2種類います。特典やステータスだけを目当てに、決済は他のカードに寄せている「休眠に近い会員」と、日常の支払いをそのカード1枚に集中させてくれる「メインカード会員」です。前者はコストばかりかかり、後者は加盟店手数料や関連サービスの利用で継続的に利益をもたらします。
年会費を上げるという行為は、この2種類の会員に同じ質問を投げかけることに等しい。「この金額を払ってでも、このカードを選び続けますか?」。休眠に近い会員の一部は、ここで離脱します。それは織り込み済みです。むしろ「離脱してくれること」自体が、値上げの狙いの一部になっている。空いた席で、メインカード会員への優遇をより厚くできるからです。
今回のANAアメックスの改定を、この目で見てみましょう。年会費を上げると同時に、利用ボーナスマイルという「たくさん使う人ほど得をする」仕組みを新設しています。これは偶然ではなく、値上げとセットで設計された「誰に残ってほしいか」のメッセージだと私は読みます。
新規会員を1人取るコストは、既存会員1人を維持するコストの何倍にもつきます。広告費、審査、入会特典のマイル。だから、値上げで一部に降りてもらい、残った会員を厚くもてなす方が合理的なんです。値上げは「今いる会員を大事にする」ための投資でもある。ただし——その「大事にされる会員」に自分が入っているかは、別の話です。
もう一つ、法人営業の現場でよく耳にしたのが「上位カードほど、解約されにくい」という前提です。年会費が高いカードほど、会員はステータスや積み上げてきた実績への愛着が強くなり、値上げに対しても離脱しにくいと考えられています。プレミアムの値上げ幅が22,000円と、ゴールド(8,800円)の2倍以上になっているのは、この前提を踏まえた強気の設計だと私は見ています。逆に言えば、その「離脱しにくさ」に甘えず、自分の使い方を定期的に棚卸しする習慣がある人ほど、値上げに振り回されずに済みます。
年400万円・600万円のボーナス基準は、誰のための数字か?
2027年1月1日から始まる利用ボーナスマイルは、ゴールドが年間400万円の決済で15,000マイル、プレミアムが年間600万円の決済で30,000マイルという設計です。月額に直すと、ゴールドは月33万円強、プレミアムは月50万円の決済が目安になります。
この金額を「高い」と感じるか「余裕」と感じるかで、あなたがこのカードの想定顧客なのかどうかが分かります。カード会社が閾値を決めるとき、そこには必ず意図があります。年400万円という数字は、たまたま切りのいい数字を選んだわけではなく、「このカードをメインカードとして使ってくれる層」の決済額の分布を見て逆算された線です。
言い換えると、この数字は読者に向けた質問でもあります。あなたの年間のカード決済額は、家賃・光熱費・通信費・保険料・日常の買い物まで含めて、いくらになりますか。もし400万円に届かないなら、このカードの優遇設計はあなたのためのものではない、ということです。年会費だけ払って、ボーナスマイルの恩恵を受けられない会員になってしまいます。
自分の決済額を計算する際は、次のような固定費から積み上げていくと、実際の数字が見えやすくなります。
- 家賃・住宅ローン関連の支払い(カード払いにできる範囲)
- 電気・ガス・水道・通信費などの毎月の固定費
- 生命保険・損害保険の保険料
- 日常の食費・日用品・サブスクリプションの合計
- 出張や旅行など、単発だが金額が大きい支払い
これらを1年分足し合わせて400万円(ゴールド)や600万円(プレミアム)に届くようであれば、利用ボーナスマイルはあなたにとって現実的な特典になります。届かない場合は、無理にこのカード1枚に決済を寄せるのではなく、還元率で選ぶ別のカードを主軸に据えた方が合理的です。
| カード | 年間の目安決済額 | 月あたりの目安 | 利用ボーナスマイル(2027年〜) |
|---|---|---|---|
| ゴールド | 400万円 | 約33万円 | 15,000マイル |
| プレミアム | 600万円 | 約50万円 | 30,000マイル |
月33万円・月50万円という水準は、固定費をどこまでカード払いに寄せられるかで届きやすさが一変します。家賃や保険料をカードに乗せられる人と、乗せられない人。分かれ目はそこです。
同じように「決済額で会員を線引きする」設計は、ANAのSFC(スーパーフライヤーズカード)——上級会員資格を狙って搭乗や決済を集中させる、いわゆる「修行」——でも使われています。搭乗の頻度や金額でステータスの価値が変わる構造は、今回のボーナスマイルの閾値設計と根っこが同じです(関連記事:ANA SFCを決済額で縛る本当の理由)。
「100円=3マイル相当」の”相当”とは何か?
ANAアメックスの案内でよく見る「100円=3マイル相当」という表記。この「相当」という一語に、実は注意が必要です。
アメックスのカードは、決済に応じてまずアメックス独自のポイント(メンバーシップ・リワード)が貯まり、それを別途マイルへ移行するという2段構えの仕組みになっています。「100円=3マイル相当」は、ポイントを貯めてマイルへ移行することを前提にした換算表現であって、決済した瞬間にマイルそのものが加算されるわけではありません。移行コースの費用体系や移行タイミングの細則は改定のたびに変わる可能性があるため、申し込み前に必ず公式サイトの最新の案内で確認してください。この記事では、確定していない移行手数料や上限の数字を断定しては書きません。
もう一つ、適用範囲にも注意が必要です。公式の比較表を読むと、ゴールドの「100円=合計3マイル相当」はANAでの航空券購入時の数字で、日常の買い物は「100円=1ポイント」が基本です(ANA加盟店などで上乗せあり)。つまり全部の決済が3倍になるわけではありません。たとえば年間200万円の決済のうちANAの航空券が50万円なら、航空券分が15,000マイル相当(50万円÷100円×3マイル)、日常の買い物150万円分が約15,000マイル相当(100円=1ポイント換算)で、合計約30,000マイル相当という計算になります。ここに、ダイニングキャッシュバックやラウンジ利用料の節約分といった、マイル以外の還元が上乗せされます。年会費42,900円を回収できているかは、①損益分岐点の物差し(後述)にあわせて、自分の決済の内訳で計算してみてください。
もう一つ、読者からよく聞かれるのが「ANAアメックスは永久不滅ポイントの対象ですか?」という質問です。答えは「いいえ」です。永久不滅ポイントはクレディセゾンが発行するカードの制度で、ANAアメックスはアメリカン・エキスプレスが発行するカードのポイントプログラムでマイルへ移行する仕組みです。似たクレジットカードのポイント制度が多いために混同しやすいところなので、ここで整理しておきます。
「相当」は珍しい表現ではありません。営業の現場にいた身として言えば、条件を細かく並べるより「一目で価値が伝わること」を優先した結果の言葉で、悪意はありません。ただ、読む側の心得は1つだけ。「相当」の付いた数字を見たら、その中身——移行の手続き・タイミング・条件——を一度確かめる。それで「思ったより貯まらなかった」は防げます。
私はANAダイナースを8年持って、値上げを機に降りました
ここからは私自身の話です。先に断っておくと、ANAアメックス自体は持ったことがありません。私が8年持ったのは、同じANA提携のANAダイナースです(2018年から8年、うちプレミアムだった期間が約2年)。そして2026年、年会費の値上げを機に、更新前に解約しました。ダイナースクラブとANAが提携したカードで、今回のANAアメックスとは発行会社が違いますが、「ANA提携の上位カードを長期保有し、年会費の値上げをきっかけに手放した」という構造はまったく同じです。
8年の間、ラウンジやマイルの積算といった特典には十分満足していました。でも2026年、年会費の値上げが発表されたとき、私は更新前に解約する判断をしました。理由はシンプルです。「もったいないと言われても、維持費の方がもったいない」。周りからは「せっかく8年も持っていたのに」と言われましたが、8年持ったこと自体は資産でも借金でもありません。続ける理由にはならないと、私は考えました。
外資系カード会社で10年以上、法人営業をしてきた身としては、「長く持っているカードを手放すことへの心理的な抵抗」は、業界側もよく理解している感情だと思います。だからこそ、値上げの通知には「特に何もアクションしなければ、そのまま自動的に継続される」という仕組みが組み込まれています。何もしなければ残る、行動しなければ現状維持——この設計自体は責められるべきものではありませんが、読者の側は「自分は今、何もしないことで継続を選んでいる」という自覚だけは持っておいた方がいいと思います。
この判断の裏にあった基準は、この記事の後半(4つの物差し)で詳しく説明します。ここで伝えたいのは、「長く持っているカードほど、手放しにくくなる」という心理的な引力があるということです。今回のANAアメックスの値上げに直面している方の中にも、同じ引力を感じている人がいるはずです。ダイナースの値上げのとき、続けるか解約するかをどう判断したかは、こちらの記事で詳しく書いています(関連記事:ダイナース年会費値上げ|継続か解約か)。
正直なところ、解約する数か月前までは「続けるだろうな」と自分でも思っていました。8年も持っていると、ラウンジの使い方も、マイルの貯め方も、体に染みついています。それでも最終的に降りる決断ができたのは、「続ける理由」を数え直したときに、そのほとんどが「せっかくここまで来たから」という惰性でしかないと気づいたからです。惰性で続けている自覚があるカードほど、値上げのタイミングは見直しの好機になります。
実感として、判断に効いたのは「8年」という長さより、その間に自分の生活がどれだけ変わったかでした。持ち始めた頃と今とでは、優先したい支出も旅行の頻度も違う。カードは同じでも、こちらは同じではないんですよね。
解約の電話で、引き止められると何が起きるのか?
解約を決めて電話をかけると、多くのカードでオペレーターから引き止めの提案を受けます。私がANAダイナースを解約したときも、条件付きでポイントを上乗せする、という趣旨の提案を受けました。具体的な条件や金額はここでは書きません(記憶が正確でない数字を書くのは、読者に対して不誠実だと思うからです)。大事なのは、「引き止めがある」という事実そのものです。
元カード会社の法人営業として見ると、この引き止めには明確な経済合理性があります。新規の会員を1人獲得するコストと、既存の会員1人を引き止めるコストを比べると、たいてい引き止めの方が安い。広告費・審査コスト・初期特典のコストをかけて新規を1人取るより、電話1本でポイントを少し積み増す方が、カード会社にとっては安上がりです。だから、解約の電話をかけると高い確率で引き止めの提案が来ます。これは偶然でも特別扱いでもなく、業界に共通する仕組みです。
引き止めの電話を受けたとき、多くの人はその場で心が揺れます。「せっかく上乗せしてくれるなら」という気持ちは自然なものですし、私自身、電話口でまったく心が動かなかったわけではありません。ただ、その上乗せは、あくまで「今年だけ」の話であることがほとんどです。翌年また同じ年会費を払い続けるかどうかの判断は、結局先送りされているだけなのです。目の前の上乗せで、根本の損益分岐点から目をそらさないこと。それだけです。
もう一つ、元営業として付け加えておきたいのは、引き止めのトークにはある程度決まった型があるということです。「今解約されるのはもったいない」という共感から入り、条件を提示し、それでも難しければ「では今回は手続きを進めます」と引く。これは対応するオペレーターの個人の裁量というより、多くのカード会社で共有されているトークの流れです。型があると分かっているだけで、電話中に冷静さを保ちやすくなります。感情に訴える言葉が出てきたときほど、一度立ち止まって、自分が最初に決めた基準に立ち返ってください。
ここで大事なのは、電話をかける前に「この条件が出たら残る、出なくても降りる」という自分の基準を決めておくことです。その場の会話の勢いで判断すると、引き止めの提案そのものに価値を感じてしまい、当初の決断が揺らぎます。私は電話をかける前から「よほどの条件でない限り降りる」と決めていたので、迷わず解約できました。ANAアメックスの解約を検討している人も、電話をかける前に、自分なりの基準を1行でいいのでメモしておくことをおすすめします。
損益分岐点はどこか——続けるか降りるかを4つの物差しで採点する
ここまでの内容を、実際に使える判断の型にまとめます。題名に掲げた「続ける人・降りる人の分かれ目4つ」が、この4つの物差しです。私自身がANAダイナースを解約した際に(意識してではなく、結果的に)通っていた4つの物差しです。ANAアメックスの新体系にもそのまま当てはめられます。
| 物差し | 問い | 私の場合の判断 |
|---|---|---|
| ①損益分岐点 | 年会費を、特典還元とマイルの価値でどこまで回収できるか | 維持費の方が上回ると判断した |
| ②改悪耐性 | 保険や特典の適用条件が変わっても、続けられるか | 条件変更のたびに再計算するのが負担だった |
| ③撤退容易性 | やめると決めたとき、すぐ・損なく撤退できるか | 解約期限を事前に確認し、ポイントは全額マイルへ退避できた |
| ④3年後も欲しいか | 今の特典でなく、3年後の自分がまだ欲しいと思えるか | 欲しい機能が付くのを待つうちに、気持ちが離れていた |
①損益分岐点は、ゴールドなら年会費42,900円を、特典の還元とマイルの価値でどこまで回収できるかという計算です。「相当」の章で見た「100円=3マイル相当」の換算だけでなく、ダイニングキャッシュバックやラウンジ利用料の節約分も含めて、自分の使い方でトータルいくら得しているかを数えるのがポイントです。感覚ではなく数字で確認してください。特に、ダイニングキャッシュバックのように事前登録が必要な特典は、登録し忘れると回収額がゼロになります。「使えるはずの特典」ではなく「実際に使った特典」だけを積み上げて計算するのが安全です。
②改悪耐性は、今回の保険の自動付帯から利用付帯への変更のような、条件面の変化にどこまで耐えられるかという視点です。特典の内容自体は変わらなくても、「使う条件」が厳しくなるのは実質的な改悪です。マイルの使い方や貯め方が1枚のカードに集中していると、こうした変更の影響を大きく受けます。マイルを複数の出口に分散させておく考え方は、こちらでも詳しく扱っています(関連記事:ANAマイル一極集中リスクの分散戦略)。カードそのものだけでなく、ANAの制度全体で改定が続くようであれば、SFC修行を含めた見直しも視野に入れておくといいと思います(関連記事:ANA SFC改悪対策)。
③撤退容易性は、やめると決めたときにスムーズに撤退できるかどうかです。解約のタイミング・ポイントの退避先・家族カードやビジネスカードの整理が必要かどうかを、加入する前に把握しておくと、いざというときに慌てません。撤退容易性が低いカードほど、「もったいないから」という理由だけで惰性で持ち続けてしまいがちです。具体的な手順は次の章で説明します。
④3年後も欲しいかは、今この瞬間の特典だけでなく、数年先の自分がまだこのカードを選ぶかという問いです。今回のような大きな改定は、頻繁に起きるものではありません。だからこそ、目先の特典だけでなく、3年後・5年後も同じ生活スタイルでこのカードを使い続けるイメージが持てるかを、一度立ち止まって考える価値があります。次の章で触れるタッチ決済の話は、まさにこの物差しに関わる実体験です。
降りると決めた人がやるべきこと(実務チェックリスト)
「続けるか降りるか」を判断した結果、降りると決めた人向けに、私が実際にANA提携カードを解約したときにやった手順を共有します。ANAアメックスを検討している人にもそのまま使える手順です。
- ①次の年会費が発生しない解約期限を、自分でオペレーターに確認する。私は解約の電話をかけた際、「いつまでに手続きすれば、次の年会費が発生しないか」を自分から確認しました。更新月をまたいでから解約すると、その年の年会費を払った上でカードを手放すことになりかねません
- ②貯まっているポイントを、解約前に退避する。私は貯めていたポイントを全額ANAマイルへ交換してから解約し、結果として16万マイル以上を手元に残せました。カードを解約すると、それまで貯めたポイントが失効するケースがあるため、退避は解約前に済ませておくのが鉄則です。ポイントからマイルへの移行には日数がかかるため、特典航空券を取る予定があるなら予約時期から逆算して早めに動いてください(所要日数は公式サイトで確認を)。マイルに交換したあとの使い道は、こちらでまとめています(関連記事:ANAマイル16万の使い方)
- ③家族カード・ビジネスカードも同時に整理する。私はビジネスアカウントも本カードと同時に解約し、ポイントを1本化してから交換しました。カードを分けて持っていると、それぞれで細かくポイントが残ってしまい、後から思い出すのが面倒になります
この3つを解約前に済ませておけば、「もったいないから残す」ではなく「必要なものは回収したから降りる」という、後悔の少ない撤退ができます。逆に言えば、この3つさえ済ませてしまえば、あとは迷わず電話をかけるだけです。準備が整っていない状態で電話をかけると、オペレーターとのやり取りの中で判断が鈍りやすくなります。解約は「思い立ったらすぐ電話」ではなく、「準備してから電話」の順番を守ってください。
付け加えると、解約の連絡はカード会社によって電話のみの場合と、Webや郵送でも受け付けている場合があります。私が解約したときは電話でのやり取りが必須でしたが、手続き方法はカードごとに異なるため、解約を決めたら早めに公式サイトやカード裏面の案内で窓口を確認しておくと、余計な手間を省けます。解約が信用情報にどう記録されているか気になる人は、CICを500円で開示すれば自分の目で確かめられます(関連記事:CIC情報開示の見方)。
提携カードの装備は、なぜ遅れるのか?——タッチ決済を7年待った話
この章の体験談は、ANAアメックスではなく、私が持っていたANAダイナースの話です。同じ「提携カード」という構造を持つカードとして、参考になる部分があると思い、あえて書きます。
タッチ決済(かざすだけの決済)は、アメリカン・エキスプレスのプロパーカードでは2015年ごろから対応が始まっていました。ダイナースクラブの本家カードも2020年12月には対応済みです。ところが、私が持っていたANA提携のダイナースにタッチ決済が搭載されたのは2025年4月。本家から実に4年以上、私自身の入会からは約7年遅れての対応でした。
提携カードは、提携元(この場合はダイナースクラブ)のシステム更新に加えて、提携先(ANA)側の仕様との調整も必要になります。関係者が2社になる分、機能追加の意思決定に時間がかかりやすい。これは特定の会社の怠慢というより、提携カードという仕組みそのものが持つ構造的な事情です。
元カード会社の営業として社内の稟議の流れを見てきた経験から言うと、機能追加や仕様変更は「その機能単体の良し悪し」だけでなく、他の優先プロジェクトとの兼ね合いで後回しにされることがよくあります。提携カードの場合、この優先順位づけが自社の判断だけでは決まらず、提携先の意向も加わる分、さらに時間がかかりやすくなります。ANAアメックスも、発行こそアメリカン・エキスプレス自身ですが、ANAとの提携カードであることに変わりはありません。装備や特典の変更に2社の調整が絡む力学は、私が持っていたANAダイナースと共通です。
私の場合、7年待ってようやくタッチ決済が付いたと思ったら、その翌年に年会費の値上げが発表され、結局そのまま降りることになりました。「欲しい機能が付くまで待つ」という判断は間違っていなかったと思いますが、待っている間に、カードそのものへの気持ちが少しずつ離れていたのも事実です。これが、4つの物差しの④「3年後も欲しいか」を私が重視する理由です。ANAアメックスを検討する際も、今ある特典だけでなく、数年単位で自分の気持ちが続くかを考えてみてください。
「いずれ良くなるはずだから待とう」は、間違いではありません。ただ、待っている間も年会費は落ち続けます。「いつまで待つか」の期限だけは、自分の中に持っておいてください。
それでも申し込む人へ——向いている人・向いていない人
誤解のないように言うと、この記事は「申し込むな」ではありません。向いている人は、確かにいます。むしろ今回の刷新で「メインカードとして使ってほしい」という基準が数字で示されたぶん、自分が対象かどうかは判断しやすくなりました。
向いている人
- 年間の決済額を、家賃や保険料まで含めてこのカード1枚に集中できる人(目安はゴールドで年400万円前後、プレミアムで年600万円前後)
- ANAへの搭乗頻度が高く、貯めたマイルを実際に使う予定がある人
- ラウンジやダイニングキャッシュバックなど、複数の特典を組み合わせて使いこなせる人
- 羽田空港第2ターミナル国際線を利用する機会があり、POWER LOUNGE PREMIUMを実際に使える人
向いていない人
- 特典やステータスだけが目的で、決済は他のカードに分散させている人
- 年会費の値上げ分を、特典の還元で回収できるか計算していない人
- ANAのSFC修行など、他の制度とあわせて「改悪」の影響を受けやすい使い方をしている人(SFC側の改定対策はANA SFC改悪対策で解説しています)
- 海外旅行傷害保険を「持っているだけで安心」の自動付帯の感覚で使っていて、利用付帯への変更に気づかないまま旅行を予約してしまいそうな人
今回の刷新にあわせて、新規入会キャンペーンも発表されています。報道によれば、期間は2026年9月2日から11月4日まで、獲得できる最大マイル数は一般カードで38,000マイル相当、ゴールドで128,000マイル相当、プレミアムで242,000マイル相当とされています。あわせて、8月19日から11月18日まで抽選300名に50,000マイルが当たる「ドリームキャンペーン」も実施されるとのことです。ただし、この最大マイル数を獲得するために必要な決済額などの詳細条件は、この記事を書いている時点では確認できていません。数字の大きさだけで飛びつかず、9月2日以降に公式サイトで達成条件と期限を必ず確認してから申し込んでください。
実際、今回の改定をめぐっては「年会費が上がるなら解約すべきだ」という声と、「新特典が増えるなら9月2日以降に入会すべきだ」という声が、レビュー系の情報発信でも真っ二つに分かれています。どちらの意見も、それ自体は間違っていません。答えが分かれるのは当然です。年400万円・600万円という決済額に届く使い方をしている人にとっては「入会すべき」が正解ですし、届かない使い方をしている人にとっては「解約すべき」が正解になる。どちらが自分にとっての正解かは、この記事の4つの物差しで、あなた自身の使い方に当てはめて確かめてください。
よくある質問
Q. ANAアメックスの年会費は、結局いくら上がりますか?
A. ゴールドは34,100円から42,900円へ8,800円の値上げ、プレミアムは165,000円から187,000円へ22,000円の値上げです。一般カードの年会費(7,700円)はデザイン変更のみで据え置きです。新体系は2026年9月2日の申込分から適用されます。
Q. 「9月1日までに申し込めば年会費は今のまま」というのは本当ですか?
A. 半分だけ本当です。公式には「旧年会費は初年度だけ、2年目以降は新年会費」と明記されています。既存会員も2026年11月ご請求分から順次、新年会費へ切り替わるため、駆け込みで申し込んでも値上げそのものを避けることはできません。急いで申し込む意味があるとすれば、初年度だけ8,800円安く済む点に限られます。
Q. 損益分岐点はどう考えればいいですか?
A. 年会費(ゴールドなら42,900円)を、マイル還元やダイニングキャッシュバックなど自分が実際に使う特典の合計で、どこまで回収できるかを実際の年間決済額で計算します。回収額が年会費を上回るなら続ける、下回るなら見直す——感覚でなく数字で確認するのがコツです。
Q. ANAアメックスは永久不滅ポイントの対象ですか?
A. 対象ではありません。永久不滅ポイントはクレディセゾン発行カードの制度で、ANAアメックスはアメリカン・エキスプレスが発行するカードのポイントプログラムでマイルへ移行する仕組みです。名称が似た制度が多く混同されやすいので、申し込み前に整理しておきましょう。
Q. プレミアムの海外旅行傷害保険はどう変わりますか?
A. 2026年11月1日から、自動付帯から利用付帯へ変わります。補償内容そのものは変わりませんが、旅行代金をこのカードで決済していないと保険が適用されません。これまでは持っているだけで安心できましたが、今後は旅行を予約するたびに決済方法を意識する必要があります。
Q. POWER LOUNGE PREMIUMはANAラウンジと同じ意味ですか?
A. 別の施設です。羽田空港第2ターミナル国際線に新設されるラウンジで、公式にも「ANAラウンジとは異なります」と明記されています。国内線のANAラウンジはプレミアム会員のみが利用できる別の特典です。
Q. 今回の刷新にあわせた入会キャンペーンは、過去最大ですか?
A. 過去のキャンペーンと比べて最大かどうかは、公式が比較を出していないため断定できません。規模で言うと、報道によれば2026年9月2日から11月4日まで実施されるキャンペーンで、獲得できる最大マイル数は一般カードで38,000マイル相当、ゴールドで128,000マイル相当、プレミアムで242,000マイル相当と発表されています。あわせて抽選300名に50,000マイルが当たるドリームキャンペーンもあります。達成に必要な決済額などの詳細条件は公式サイトで必ず確認してください。
まとめ|値上げの通知は、使い方を見直す最高のタイミング
ANAアメックスの今回の刷新は、単なる値上げのお知らせではなく、カード会社からの「これからも私たちのメインカードとして選んでもらえますか?」という選別の通知だと、私は読んでいます。
選別されること自体は、悪いことではありません。年400万円・600万円という基準に届く使い方をしている人にとっては、むしろ今回の改定は歓迎すべき内容です。逆に、届かない使い方をしている人にとっては、年会費の値上げを機に、他のカードや他の使い方を見直す良いタイミングでもあります。「解約すべきだ」という意見も「9月2日以降に入会すべきだ」という意見も、どちらも正しくなり得ます。あなたが選別のどちら側にいるかで、正解は変わります。
私自身、ANA提携カードを8年持って、値上げを機に降りました。降りたことを後悔しているかと聞かれれば、していません。むしろ、維持費に払っていた分を他の場所に回せるようになり、身軽になった感覚のほうが大きいです。もちろん、「続ける」という判断が正しい人もたくさんいます。この記事の目的は、どちらか一方に誘導することではなく、あなた自身が納得できる基準を持って判断できるようにすることです。
最後に、4つの物差しだけ持ち帰ってください。①年会費を回収できる決済額があるか。②条件が変わっても続けられるか。③やめるとき、損なく降りられるか。④3年後の自分も欲しいか。ニュースの見出しにではなく、自分の決済明細に答えを聞く。値上げの通知が来た日にやることは、それだけで十分です。


