※ 本記事は特定企業の評価や断定を目的としたものではなく、報道された公表事実と、筆者自身の実務経験にもとづく一般的な解説です。
💳 この記事の結論(先に3行)
- カードで受け取った売上は、お店の口座に入るまで”まだお店のお金ではない”。その間を預かるのが決済代行会社です。
- だから決済代行が破綻すると、入金前の売上(売掛金)がまるごと飛ぶおそれがある——全東信の破産が、この構造的リスクをあらためて意識させました。
- 対策は「決済代行を1社に依存しない」「入金サイクルを把握する」こと。カード売上比率が高いお店ほど死活問題になります。
「カードで受け取った売上は、まだ”あなたのお金”ではない」——そう言われて、ドキッとした事業者の方はいないでしょうか。
2026年7月、飲食店向けの早期決済代行を手がけていた株式会社全東信が負債約1,259億円で破産し、今年最大の倒産となりました。加盟店や利用者への影響が注目されましたが、加盟店にとって本当に怖いのは別のところにあります。それが「入金される前に、預けていた売上が消えてしまう」という、決済代行という仕組みそのものが抱えるリスクです。
私は外資系カード会社の元法人営業(10年以上)として、加盟店契約の相談を数えきれないほど受けてきました。カードを”使う側”の記事はたくさんありますが、この記事では“カードを受け取る側(お店)”の裏側を、中の人だった視点で解説します。決済代行とは何か、その仕組みとなぜ入金にタイムラグがあるのか、そしてなぜ業種によって審査も手数料も大きく変わるのか。全東信の破綻を入り口に、事業者が本当に備えるべきことまで一気に整理します。
そもそも決済代行会社とは?|仕組みと「お店とカード会社の間」の役割
お店がクレジットカード決済を導入するとき、多くの場合は決済代行会社を通します。VisaやMastercardといった国際ブランド、そしてカード会社と、個々のお店が直接契約するのは手続き上も審査上もハードルが高いため、その”間”に立って契約・入金・決済手段の用意などをまとめて引き受けてくれるのが決済代行会社です。これが決済代行の基本的な仕組みです。
お客さんがカードで支払っても、その代金はその場でお店に入金されるわけではありません。いったん決済代行会社が受け取り、一定の手数料を差し引いたうえで、数週間〜1か月ほど後にお店へまとめて入金します。つまり決済代行会社は、その間の売上金を”預かっている”状態になります。
この“預かり”の途中で決済代行会社が倒れると、まだ入金されていない売上は宙に浮く。これが「売上が飛ぶ」の正体だ。
私が法人営業をしていた頃も、「カードを導入したいがどうすればいいか」という相談は日常的にありました。お店側から見れば「カードが使えるようになる」だけのシンプルな話に見えますが、その裏側ではお金が何段階も人の手を経て動いている——この構造こそが、今回のリスクの出発点です。
なぜ入金にタイムラグがあるのか|”売上が飛ぶ”リスクの正体
決済代行の仕組みで最も見落とされがちなのが、この「決済(お客さんが払う)」と「入金(お店が受け取る)」の間の時間差です。ここに、決済代行ならではのリスクが潜んでいます。具体例で見てみましょう。
📅 「売上が飛ぶ」とはどういうことか
- 7月1日:お客さんがお店でカード決済(例:10万円)
- この10万円は、まず決済代行会社が預かる
- お店への入金予定日は7月31日
- その入金日の”前”に、決済代行会社が破綻
- 結果:お店は10万円を受け取れない可能性が高い
= お店にとっては、確かに売れたのに「売掛金(カード売上)が飛ぶ」状態。決済代行を挟む以上、避けにくい構造的なリスクです。
破産手続きに入ると、その後は管財人が会社の財産を整理し、債権者へ配当していく流れになります。ただし手元に残っている資産が少なければ、お店(債権者)が回収できる金額はごくわずかになりがちです。つまり一般に、入金前の売上を多く抱えていた加盟店ほど、影響は大きくなりやすいということです。
ここで大事なのは、これは「特定の悪い会社」の話ではなく、決済代行という仕組みそのものが持つリスクだということ。だからこそ、後述する”リスク分散”の考え方が効いてきます。
業種で審査も手数料も違う理由|中の人が見てきた実態
ここからは、私が現場で実際に見てきた話です。加盟店契約の相談を受けるなかで、エステサロンや、いわゆる”夜のお店”からのご相談は非常に多いという実感がありました。ところが、この手の業種は審査がなかなか通りません。
審査そのものは私たち営業とは別の審査部門が担当していて、私はお店からの相談を担当部署へ取り次ぐ立場でしたが、「取り次いだものの、結局は契約できなかった」というケースは何度もありました。理由は、国際ブランドがこうした業種をハイリスクと位置づけているためです。
なぜ”ハイリスク業種”は審査が厳しいのか
- チャージバック(支払い取消し)が多い:後からトラブルになりやすい
- 利用トラブル・クレームが起きやすい
- ブランドイメージの観点からも慎重になる
審査のハードルが高いぶん、仮に契約できても手数料率は非常に高く設定される傾向があります。一般的な小売・飲食店の決済手数料が数%程度なのに対し、ハイリスク業種では10%前後、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。
審査が厳しい業種ほど手数料は上がる。だから“カード払いは+10%”と上乗せする店も出てくるが、これは本来、加盟店規約に反する。
その結果として、飲み屋や夜のお店で「カード払いは+10%」のように、手数料を客側に上乗せしているケースを見かけることがあります。しかし、これは本来カード会社の加盟店規約に違反する行為です。上乗せが発覚すると、通報されたり、加盟店契約そのものを取り消されたりすることもあります。良いことではありませんが、こうした運用が現場で行われているのが実態だと感じています。
全東信の破綻が示したこと|報道された公表事実
ここまで見てきた決済代行の仕組みを踏まえて、全東信の件で報道されている公表事実を整理します。
📌 全東信をめぐる公表事実(各種報道より)
- 株式会社全東信(大阪)が2026年7月6日、大阪地裁に自己破産を申請し、破産手続き開始の決定を受けた
- 負債額は約1,259億円(2025年3月末時点)で、2026年最大の倒産
- 飲食店を中心としたカード加盟店の売上を、カード会社に先行して入金する早期決済代行サービスを提供していた
- コロナ禍で加盟店の飲食店が時短・休業を迫られ、収入が落ち込み、赤字が続いていた
そして、ここは慎重に事実だけを記します。報道によれば、2024年1月に、審査が通らない飲食店の加盟店契約を他人名義で結んだとして社員らが逮捕され、その後、同社も組織犯罪処罰法違反の疑いで書類送検されたとされています。書類送検は起訴や有罪を意味するものではなく、あくまで報道されている経緯である点を申し添えます。
決済代行というビジネスは、審査の通りにくい加盟店とどう向き合うか、預かった資金をどう管理するかといった構造的な難しさと、常に隣り合わせです。今回の破綻は、その難しさをあらためて私たちに突きつけました。
事業者・消費者が備えるべきこと|キーワードは”リスク分散”
では、私たちはこの件から何を学べばいいのでしょうか。立場ごとに整理します。
■ カード売上比率が高い事業者の方へ
- 決済代行を1社に依存しない:複数の決済サービスを併用しておくと、1社が止まっても事業が完全には止まりません。
- 入金サイクルを正確に把握する:「いつ決済した分が、いつ入金されるか」を理解し、”預けている売上”がどれだけあるかを常に意識する。
- 決済代行会社の信用力にも目を向ける:手数料の安さや初期費用だけでなく、その会社の安定性・規模も判断材料に入れる。
■ 消費者(カードを使う側)の方へ
直接の影響は大きくありませんが、覚えておいて損はないことが1つあります。それは、「カード払いは手数料として+数%〜10%」と上乗せしてくるお店は、加盟店規約に違反している可能性があるということ。トラブルを避ける意味でも、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
決済代行に関するよくある質問(FAQ)
Q. 決済代行とは何ですか?
お店がクレジットカード決済などを導入する際に、カード会社や国際ブランドとの契約・入金・決済手段の用意をまとめて代行してくれる会社・サービスのことです。お店は決済代行会社を通すことで、複数のカードや決済手段をまとめて導入できます。
Q. クレジットカード会社と決済代行会社の違いは?
カード会社はカードを発行し利用者に与信する側、決済代行会社は”お店側”に立って決済導入と入金を仲介する側です。お客さんの支払いは、お店→決済代行会社→カード会社という流れで処理され、売上はいったん決済代行会社を経由してお店へ入金されます。
Q. 決済代行会社を使うリスクは?
最大のリスクは、決済代行会社が破綻した場合に、まだ入金されていない売上(売掛金)を回収できなくなるおそれがあることです。対策として、決済代行を1社に依存せず複数を併用する、入金サイクルを把握する、会社の信用力を確認する、といったリスク分散が有効です。
Q. 決済代行の手数料はどれくらい?
一般的な小売・飲食店では数%程度が目安です。ただし業種によって差が大きく、ハイリスクと判断される業種では10%前後、あるいはそれ以上になることもあります。なお、この手数料をお客さんに上乗せする行為は、本来カード会社の加盟店規約に違反する可能性があります。
まとめ:決済代行会社は、普段はほとんど意識されない”縁の下の存在”です。しかし破綻すれば、お店が受け取るはずだった売上が飛びかねない——キャッシュレス社会の見えにくいリスクが、そこにあります。カードは”使う側”だけでなく”受け取る側”にも仕組みとリスクがある。全東信の一件は、それを私たちに教えてくれました。
<筆者>外資系カード会社の元法人営業(10年以上)。加盟店開拓や入金の現場を間近で見てきた経験と、FP2級・ヒルトンダイヤモンド会員としての知見をもとに、”お金の裏側”をわかりやすく解説しています。

